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金の君 銀の君

مؤلف: エチカ
last update تاريخ النشر: 2026-08-01 20:28:45

 普段穏やかな人が怒ると怖い――。

 まさにそれを体現しているかのような、静かな怒りの中に震える程の畏怖を感じられる。

 オブライアンには王妃とダリスを迎えに行って貰い、残ったメンバーでケルメスとその護衛の身柄を拘束し、大公家の馬車で護送する。

 拘束されていると言っても狭い車中に膝を突き合わせて乗るのが嫌で、オルタナはスーランが手綱を引く御者台の隣に乗せて貰う。

 ガラガラと坂を下る立派な馬車の騒音に紛れて、スーランが呟く。

 ――来た。

「何か言った? スーラン」

「いんや、何でもない」

「そう?」

 確かに何か呟いたように聞こえたのに、とオルタナは首を傾げた。

 だが聞き間違いかと思い、深くは問い質さなかった。

「さっきは助けてくれてありがとうね、スーラン」

「滅相もございません、オルタナ様」

「ちょ、止めてってば!」

「ははっ」

「師匠……オブライアンさん、厳しいの?」

「うーん……厳しいって言うか、凄い圧? があるって言うか……」

「あぁ……何となく分かるかも」

「ド正論で隅から隅まで詰められて逃げ場が無くなる……みたいな。すげぇ小言言うし、物言わぬ獅子とか絶対嘘じゃん
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  • 魔女ドーラの孫(仮)   金の君 銀の君

     普段穏やかな人が怒ると怖い――。 まさにそれを体現しているかのような、静かな怒りの中に震える程の畏怖を感じられる。  オブライアンには王妃とダリスを迎えに行って貰い、残ったメンバーでケルメスとその護衛の身柄を拘束し、大公家の馬車で護送する。 拘束されていると言っても狭い車中に膝を突き合わせて乗るのが嫌で、オルタナはスーランが手綱を引く御者台の隣に乗せて貰う。 ガラガラと坂を下る立派な馬車の騒音に紛れて、スーランが呟く。 ――来た。「何か言った? スーラン」「いんや、何でもない」「そう?」 確かに何か呟いたように聞こえたのに、とオルタナは首を傾げた。 だが聞き間違いかと思い、深くは問い質さなかった。「さっきは助けてくれてありがとうね、スーラン」「滅相もございません、オルタナ様」「ちょ、止めてってば!」「ははっ」「師匠……オブライアンさん、厳しいの?」「うーん……厳しいって言うか、凄い圧? があるって言うか……」「あぁ……何となく分かるかも」「ド正論で隅から隅まで詰められて逃げ場が無くなる……みたいな。すげぇ小言言うし、物言わぬ獅子とか絶対嘘じゃんって思ってた」「あははっ、スーランの苦手なタイプだ」「ちょっとドーラに似てんだよな」「婆ちゃんに?」「絶対許してくれないし、ノルマ熟さないと寝かしてもくれないんだけど、ちゃんとやると褒めてくれんだ」「確かに、婆ちゃんもそういうトコあるね」「最初はうるせぇおっさんだって思ってたけどさ。でも、師匠のお陰でオーリィ―の傍にいられる。感謝してるよ」 そう言ったスーランにオルタナは、公爵がもしスーランをナタリスに預けていたら……。 そんな余計な妄想をしてしまい、身震いした。 アステール河の袂まで戻って来た。 オルタナ達一行を待っていたのは、真白い海軍の軍服を着た金髪の男と、本物の大公妃だった。「エヴレカの子!」 大公妃はそう言ってオルタナを抱きしめ、隣に立っていた白い軍服の美丈夫はお茶目にウインクして見せた。「本当にエヴィにそっくりだね」「あ、あの……」「私は大公の金の君と呼ばれているカロス・キャンベルだ」「は、初めまして……オルタナと申します」 抱きしめたまま放してくれない大公妃に、どうしていいか分からないオルタナは、カロスに助けを求める様に眉尻を下げた。「

  • 魔女ドーラの孫(仮)   物言わぬ獅子

     巨木の木陰に隠れる様にして馬を繋ぎ、下馬したオルタナとスーランは鉢合わせた馬車から当人達が出て来るのを盗み見ていた。 先に出て来たのはケルメスで、遅れて大公妃が降りて来る。 少し離れた場所から見ているオルタナには話し声までは聞こえていないが、スーランにはその会話は丸聞こえの様だった。「行ってくる」「うん。気を付けて!」 スーランは腰に付けた剣を抜き、背後からケルメスに忍び寄る。 大公妃からは丸見えだが、それに気付いても大公妃は眉一つ動かす気配はなかった。 スーランが何をしようとしているのかをまるで分っているみたいに、ケルメスの気を惹き足止めしている。「動くな」 そう言ってケルメスの首元にスーランが剣を突きつける。 大公妃はそれを見て、満足そうに笑った。 この人はケルメスの悪事を知っている。 その顔を見てオルタナは大公妃はこちら側なのだと確信出来た。 そう思った瞬間、ケルメスの馬車からもう一人降りて来る――。「スーランッ! 後ろぉっ――――!!」 スーランの背後に降り立った剣を振りかざしている護衛の姿に、オルタナは思わず駆け出していた。 だが、その刹那。 大公妃が右手で何かを投げると、背後に現れた護衛は絶叫しながらしゃがみ込む。「ぎゃぁぁああっ!!」 顔を押さえたその護衛は悶絶し、手の隙間から血を流している様に見えた。 何かが顔に刺さっているらしい。 隠れていろと言われたのに飛び出してしまったオルタナは、その状況に驚き、ふいにこちらへと襲い掛かって来る護衛に後れを取る。 顔から血を流し興奮しているその護衛に掴まれ、オルタナはその力の強さに振り払う事も出来ず羽交い絞めにされてしまった。「オーリィッ!」「うぐっ……

  • 魔女ドーラの孫(仮)   約束

    「鹿笛って人間には聞こえないらしいんだけど、俺、聞こえちゃうんだよね」「スーラン、耳良いもんね」「まぁ普通じゃないらしいけど、他人に聞こえないなら都合が良いからさ。親父から大聖堂へ行けって連絡があって……」 向かっている途中に王妃を乗せた馬車と遭遇したスーランは、護衛を全員気絶させ、王妃特製の睡眠薬で眠らせる事にした。 その護衛達を見つからない様に叢へと隠して、王妃からある程度の事情を聞いて護衛の衣服と祈りの間の鍵を追剝し、大聖堂の裏山へと来たらしい。 そこでオルタナが落とした公爵家の家紋の入ったハンカチを見付けたのだと、ハンカチを抓んで振って見せる。「ラティとダリスは?」「見つからない様に隠れて貰ってる」「オーリィ、どっか痛い? 何か動きが変」「……大丈夫」 本当はさっきから背中が疼いて痛い。 でもそれより、とオルタナはスーランの顔色を診て、確かめる。 僅かな間でもあの蒸気の中にいたスーランの状態も気になっていたからだ。「スーランは体、変じゃない? 大丈夫?」「うん。俺、親父と一緒で鼻がバカだからさ。フェロモンとか効かねぇの」「そうだったんだ……」 スーランは戦争孤児で幼い頃親父さんに拾われた子供だ。 血が繋がっていないのに、似ているなんて不思議だ。「凭れかかってて良いよ」「あ、ありがと……」 スーランが乗って来た馬の前側に座らされて腰を抱かれるのが、少し居心地悪い気がした。 兄弟の様に育って来た隣の肉屋の息子は、いつの間にこんなに手が大きくなったんだろうか。 二つ年上だし、αだから昔から体格差はあった。 けれど、

  • 魔女ドーラの孫(仮)   兄弟

    「何です? 騒々しい……」「S級の孤児院で感染症らしき症状が出た子供がいると」「感染症だと?」「それより、それを伝える為に大公妃がこちらへ向かっておられます」「何だと?」「ここは私が! 早くお戻り下さい!」 そう言われてケルメスはバタバタと洞窟内を駆け上がる様にして出て行く。 オルタナはアルバに壁際まで追い込まれて、身動き取れない状況になっていた。「怖くないよ、兄さん。気持ち良い事しかしないから」「煩い! 誰がお前なんかとっ……」「他のΩの子達はみんな喜んでくれるよ?」 そう言ったアルバに唇を寄せられ、オルタナは怒りに任せてそれを噛んだ。「痛っ……ちょ、噛むなんて酷いよ……」「僕はサリバン公爵の番だっ! ヴィー様以外とはしないっ!」 苦し紛れにそう虚勢を張った時、ケルメスを呼びに来た護衛がアルバの背後に立っていた。 嘘だろ――? 二人相手じゃ詰みだ……。 そう思った瞬間、その護衛はアルバの首根っこを掴むと力任せに引き剥がし、アルバは後ろへと尻もちをつく。 護衛は腰に付けていた剣を抜いてアルバに突きつけた。「何をするっ! 僕にこんな事して許されると思っているのか?」「知るかよ。オーリィに触るな」 そう言って覆面を取った護衛は、見覚えのある赤い髪をしている。「……スーラ……ン」「大丈夫ですか? オルタナ様」「止めてってば、その喋り方……」 オルタナはスーランの顔を見て、安心してズルズルと壁沿いを滑る様に座り込んだ。「ふっ、師匠いねぇし、まぁいっか。……オーリィ、こいつ何?」「……弟、らしいよ」「公爵様の? 確かに似て……」「うん、後……

  • 魔女ドーラの孫(仮)   第二の審判

    「第二の審判……?」「オルタナ、私は君を高く評価しているのですよ。不遇な子供時代を経てサリバン公爵の番にまで上り詰めて来た。妊娠出来ないと言う欠陥が実に惜しい」「完璧ではないから殺そうと言うのですか?」「まさか。我々の最終的な目的はアルバを王に即位させ、新しい王政を布いてモリガンで夜葡萄を再生する事。お前がいてもいなくてもそれは実行される。夜葡萄の再生に必要な原初のΩの血はここにありますし、発情しないお前の血は役に立ちません。種もしかるべき所で厳重に保管していますから、お前の生死は正直問いません」 そう言ったケルメスは懐から出した香水瓶の様な物に入った血液らしき物を翳して見せた。 赤黒いそれを愛おし気に眺めたケルメスは「お前の母の血です」と笑う。 ゾッと背筋に震えが走った。 固まっていない所を見れば、何かしら混ぜてあるのかもしれない。「新しい国では神に愛された者だけの世界を創ろうと思っているのです。弱く不完全な者は先に排除し、強く賢い種だけを育てていく。植物だってそうやって間引くでしょう? より良い実を実らせる為の審判ですから、君だけではありません。あの口の達者な小娘にも第二の審判は用意してありますから、精々頑張って下さい」 ケルメスは「これはサリバン公爵への審判とも言えます」と喉を鳴らして不敵に笑った。「ではアルバ、私は大公妃の元へ戻ります」「うん」「いつもの様に、お前の好きにして良いですから」「分かった」 何の事か分からないアルバとの短い会話を終えたケルメスは、上座に据えられた女神像の足元へと歩いて行き、その土台に当たる部分を踏み抜いた。 ボコッと言う鈍い音が鳴り響き、シューっと何かが吹き出る。 煙の様なその白い気体が何なのか、ここからでは全く分からない。 走るか? いや、無理か? ケルメスがこの部屋を出る瞬間を狙って、扉が開いた瞬間にケルメスだけならどうにか出来るかもしれない。

  • 魔女ドーラの孫(仮)   傾いた天秤

     ケルメスはその青年をアルバと呼んだ。「種は違いますが、彼が同じ胎から生まれた兄ですよ」 アルバと呼ばれたその青年は、物珍しい物を見る様にこっちを見ている。「へぇ……全然似てない。あ、でも耳飾りは似てる」「彼は母親にそっくりですよ。耳飾りはレプリカでしょう」「母さんの事、全然覚えてないや」「お前が生まれて間もなく死にましたから、覚えていなくて当り前です」 そう言ったケルメスは、気持ち悪い程の笑みを見せる。 オルタナは今の状況を理解しようと必死に頭を回していたが、考える事を放棄したい感情が邪魔で上手く思考出来ない。 ただ、アルバはケルメスを“叔父上”と呼んだ。 母を愛妾として囲っていたのはケルメスだと思っていたが、ケルメスは彼の父親ではない。 それが何を意味するのか。 アルバの父親が誰なのか、誰が母を孕ませたのか――。 考えなければならない事がただ溢れてきてしまう。「驚いているようですね、オルタナ」「……そうですね」「彼はアルバと言います。正真正銘、彼はエヴレカの子であり君の弟です」「父親は誰なのですか?」「私が父親だと思いましたか? 残念ながら私は生まれて間もなく去勢されましてね。そう言った事は出来ない体です」 去勢――? この国で去勢が行われていたのはもう随分昔の事だと聞いている。 信じ難い発言だったが、今はそれどころではない。「アルバを見れば分かるでしょう? 見覚えのある顔なのでは?」 オルタナは一番気付きたくない事に、気付いてしまった。 彼がこの祈りの間に入って来た時に感じた既視感――それは、公爵に似ていると言う事だ。

  • 魔女ドーラの孫(仮)   アウルム地方 Ⅰ

     アウルム地方にあるサリバン公爵家の別荘へ来て一週間が過ぎようとしていた。 気候の良いアウルムではもう、雪の残る所はなく、芽吹いた若い緑が眩しい程だ。 オルタナの為に用意された特別な部屋とは、薬草に関する書籍や古文書が所狭しと並ぶ一室だった。 拘束も解かれその部屋を私室として与えられ、普通に暮らしていた。 そう、普通だ。「いや、おかしいだろ……」 目が覚めていつも思う。 ここで何をしているのだろうか?

  • 魔女ドーラの孫(仮)   モリガン区 Ⅴ

    「モリガン大佐に頼まれていたのは、ただの香辛料で……」「それが、悪用されたようだ」「あ、くよ……う?」「適量を守ればただの香辛料も、摂取量を間違えれば毒になる。彼らが死ぬ前に飲んだ酒には大量の香辛料が混入されていた」「ま、さか……大佐が……? 嘘だ……」「まだ、真相は分からん。だが、こんな分かりやすい方法で六人も害したとなれば、お前は犯人に仕立てられたんだろうよ」

  • 魔女ドーラの孫(仮)   アウルム地方 Ⅲ

     口に入れた瞬間から、何が入っているのかを考えて、危ないと判断したら吐き出す。 でもそれが遅れれば、体に支障が出る。 どんな薬草で、どういう症状が出るのか。 どの程度なら問題なく食べられる物なのか、常に考えていなければならない。 勿論死ぬほどの量は含まれていないが、祖母はスパルタだったから、吐こうが下そうが、白目をむいて倒れようが容赦なかった。 そうして具合を悪くする度、祖母が作ってくれるのはミルクベリーのスープだった事を思い出す。 母乳に近いと言われる栄養価の高いベリ

  • 魔女ドーラの孫(仮)   アウルム地方 Ⅱ

     そう聞かれて、オルタナはただ全力で左右に首を振って答えた。「こっちを向いて。オル……オーリィ」「へっ?」「怖くない、と言っていただろう?」「ちょ、まっ……」「ぶはっ! ははははははっ……流され過ぎだぞ、オーリィ」 公爵は、我慢ならないと言った風に腰を折って笑う。 解かれた手首には、まだ公爵の熱が残っている。 何が起こっているのか未だに整理が付かないオルタナの脳内は、混乱し熱を持って呆然とするしかなかった。

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